≪的中馬券の考察や競馬に関する様々な出来事についてのコラム≫

                  ≪タイヘイ牧場訪問とセリの見学≫

7月22日(月)八戸に足を運んだ。同行した船橋の金沢調教師の紹介でタイヘイ牧場にお邪魔した。タイヘイ牧場といえば、創立をたどると太平洋戦争時までさかのぼる必要があり、一時は敷地内で競馬も行われていた名門の御陵牧場である。故大川慶次郎氏の父である大川平三郎氏が創立者であり、その名字の頭「大」と名前の頭「平」を取ってタイヘイ牧場と名づけられた。北海道にも牧場を持っているが、そちらは分場であり、本場は八戸。この地で長きに亘って競馬の歴史の一端を担ってきた。最近の生産馬では先日、残念ながら引退した障害の第一人者
ゴーカイの活躍が記憶に新しい。

 タイヘイ牧場は太平洋に面した高台にある。レンガ造りの趣深い門の前はあざやかな景勝地になっており、カモメが飛び、近くにはウミネコの繁殖地があり、風光明媚という言葉がぴったりはまる素晴らしい場所だ。敷地内から燈台を見ることもできる。そして、最も驚いたのは牧場内をJRの列車が突っ切って走っていることだった。列車のスピードが遅かった時代には、牧場に来るのに列車から飛び降りて近道としていたらしい。

 牧場では社長の六郎田さんにお会いすることができた。夜には寿司屋に招待していただいておいしいものをご馳走になり、タイヘイ牧場のこれまでの歴史など興味深いお話をいろいろと聞くことができた。馬を愛し、競走馬の育成に情熱を注いでいる素晴らしい方だった。恐縮にも六郎田社長の奥さんに牧場内を案内していただいた。厩舎を見て、放牧されている馬たち(母馬もいたし、子馬もいた)を見て、馴致を行う施設などを見て、そう時間も取らずに牧場散歩を終えてしまった。先にも述べたが、とにかく広大な牧場である。端まで歩いたら、どれだけ時間がかかるか分からない。

そんな牧場の中に大川慶次郎氏の碑があった。まだ出来て日が浅いらしいが、碑には次のように記されていた。

「杉綾の人生 馬を愛し 馬に生きた」

杉綾とは杉の葉のように入り組んでいて複雑な様であることを言う。波乱に満ちた人生であったが、馬を心より愛し、生涯を馬に捧げたとでも解釈すればよいだろうか。
大川さんらしい言葉だ。

とにかく本当に素晴らしい牧場だった。いろいろと貴重な体験をさせていただいた。皆さんも東北方面に行かれる際には、タイヘイ牧場に立ち寄ってみてはいかがだろう。

 メインであるセリ(1歳市場)はその翌日に行われた。が、先週も述べたように特に馬を購入する予定もなく、電車の時間の都合もあったので30頭ほどのセリを見てセリ場を後にしてしまった。競走馬のセリはまず“展示”と呼ばれるものが行われる。セリによって違いがあるのだが、今回の八戸市場では広い牧草地で20頭ほどずつ馬を見せ、その後に早足で走らせるというやり方を取っていた。馬を近くで見て、脚元に問題がないかを調べることが出来るし、馬を曳いている牧場の方に性格などを聞くことが出来るし、早めのスピードで走らせることで足の送りのスムーズさや窮屈なところがないかなどを見ることも出来る。何しろ車より高い買い物である。購買者にとっては非常に重要な時間だ。

今回のセリではサラブレット134頭、アラブ2頭が上場したが、もちろん全馬の展示を行うわけだから、それだけでかなりの時間がかかることになる。展示開始が9時で終了が12時半。その後、30分のお昼休みがあって、午後1時に本番のセリが始まった。「セリ」を見たことがない方は活発に声が飛ぶ場面を想像されるだろうが、実際にそんな風景になるのは億を超える落札価格が乱発するセレクトセールぐらいのものだろう。八戸市場あたりの規模になると、3頭に1頭ぐらい声がかかって、競り合って値がつり上がって行く馬は何頭もいない。

私が見ていた中では、ダリアの13(父キンググローリアス、母カガミダリア)のセリが見応えがあった。競ったのは清水貞光氏とJRAである。確か300万ぐらいが第一声だったと思うが、お互いがムキになったように声を掛け合い、一気に600万まで値が上がっていった。最終的に引いたのはJRA。もちろん金の問題でなく、抽選馬としては元値がかかりすぎという判断からだろう。

なお、名誉のために言っておくが、八戸市場の上場馬のレベルが低いわけではない。一昨年はタムロチェリーというGT馬を出したし、青森県産馬は勝ち上がり率が非常に高いことで有名である。格となっている種牡馬はメジロディザイヤーとヒシアケボノ。メジロディザイヤーは競走成績こそ平地1勝、障害1勝だが、サンデーサイレンスと3冠牝馬メジロラモーヌの配合で騒がれた高馬であり、2代あとにとてつもない馬が出現して不思議はない。事実、今回の上場馬を見ても、メジロディザイヤーの仔は総じてシッカリした体つきをしており、活躍馬を輩出しそうなムードがある。ただ、悲しいかな障害を合わせても2勝という競走成績ではやはり人気が出ない。かなりの数が上場していたのだが、最終的にセリ落とされたのはわずか1頭だった。ヒシアケボノは競走馬時代にGTのスプリンターズSを制した快足馬である。500キロを優に超える巨漢馬であったが、子供たちも筋肉質のゴツい体をしている。そして、短距離馬らしく胴が短い。あくまで馬体を見ただけでの評価なのだが、いい牝馬に恵まれれば相当なレベルの馬を出すのではと思われる。今回は4頭がセリ落とされていた。

最終的に今年の八戸市場は売却率34.33%、取引総額1億7,400万円という結果に終わった。最高値が800万というのが少し寂しいが、売却率が前年を3%上回り、取引総額も2,100万円増だったのだから、成功といっていいだろう。最近の馬産地関係のニュースは暗い話題ばかりなのだが、小さいことでも明るいニュースがあるのは喜ばしい。八戸では11月にもセリが開かれる。活発なセリが繰り広げられることを期待したい。

今回の八戸行きを振り返ると、勉強になることが多かったし、観光旅行としても非常に楽しめるものだった。ぜひ、また顔を出したいと思っている。

l 三恵書房トップ l 会社案内 l 優駿クラブ l 優駿の蹄跡 l 最強の男の競馬サイト l